こんにちは、眠りねこです。
みなさんは「エモい」と聞いて、どんな風景が思い浮かびますか?
最近、エモいと評判の『海が聞こえる』のアニメがリバイバル上映されると聞き、アニメとドラマと原作小説を見てみました。

結論、ものすごくエモかったです。
なぜだろう?と思った時に、公開当時の雰囲気がそのまま閉じ込められているからなのかなと思いました。
1993年の公開当時は当たり前にあった東京や地方都市高知の風景。
32年たった今、もう見ることができないと思っていたら「映画の中で出会えた!」という懐かしさがあります。
バブルははじけていたけれど、まだ好景気の名残があり、賑やかで華やかな雰囲気。
就職氷河期に入るか入らないかくらいで、大人も学生もまだ余裕があった時代感も、懐かしさの要因なのかもしれません。
映画:海がきこえる 1993年 スタジオジブリ

アニメ『海がきこえる』は望月智充監督のもとスタジオ・ジブリの若手スタッフを中心に制作されました。
原作者は人気作家、氷室冴子さん。
アニメージュという雑誌で1990年2月~1992年1月までの間に連載されていました。
この原作のイラストを描かれていた近藤勝也さんが、映画のキャラクターデザインと作画監督もされています。
90年代の雰囲気が古びることもなく今に至っているのも、この近藤さんのイラストの洗練された雰囲気が大きいのではないかと思いました。
リバイバルのきっかけは2024年3月に東京・渋谷のBunkamuraル・シネマ渋谷宮下で再公演されて、連日満席のロングランヒットとなったことだそうです。
上映を企画した方は30代で当時を知らない世代の方で、見に来ていた人もZ世代の若い方だったそうです。
こちらは後述する『海がきこえる THE VISUAL COLLECTION』という書籍で知りました。
個人的にはアニメ版の主人公の拓が、一番大人びていると感じて好感を持ちました。
高校時代に「こんな同級生いてほしかったなぁ」と思いましたが、いたとしても、学生当時は良さに気付けなかったでしょうね。
あらすじ 男女3人の10代終わりの青春物語
大学入学で東京に上京して一年目の主人公、杜崎拓(もりさきたく)が、ある日駅の向かいのホームで懐かしい顔を見つけるシーンから始まります。
しかし、すぐに電車が来て、確かめる暇もなくあっという間に見えなくなり…
その後、地元へ帰る飛行機の中で、高知での高校時代を振り返ります。
拓が通っていたのは、地元で名門と言われる私立の中高一貫。
高校2年の夏に東京からの編入生、武藤里伽子がやってきて、案内をした友人の松野豊はその女子生徒に惹かれていきます。
拓は置いてきぼりを喰らったような寂しさと、友人に対する気遣いとがないまぜになりつつ、思わぬことに巻き込まれていきます。
転校生の里伽子は、それまで当たり前だと思っていた日常が失われ、親の都合で引っ越さざるを得なくなり高知にきました。
理不尽さに怒り、高知を自分の居場所とも感じられず、孤立し反発し、何とか元の自分の居場所に戻ろうともがきます。
その過程で、以前は見えていなかったことに気づくことになります。
大人とも子どもとも言えない、男女3人が10代最後の日々の喜び・怒り・悩み・懐かしさを味わっていきます。
「エモい」~懐かしい当時の風景がそのままに
作画期間が短かったのもあり、当時の高知の写真をもとに作画されているシーンも多かったそうです。
1990年代当時の高知の風景が画面の中に残っていて、個人的には里伽子の後ろに見えるカラオケ店の看板が懐かしかったです。(10年後に制作陣が訪れた時もまだありました!今はないようです)

また、拓が暮らすのは、浦戸湾沿いの小高い場所(五台山の護国寺近く)で、部屋の窓からきらきら輝く水面や小島が見えます。
子供の頃から北は山で、南は海という土地で育ってきた拓。
似たような街があちこちに点在する都会に出てきて、海も山も見えず、方向感覚が狂うと感じるのは、何も高知だけではなく地方から都会に出た人には共感されるのではないでしょうか。
※この描写は原作の方に出てきました。
個人的には拓の家の近くから見える浦戸湾の夕暮れの風景が一番好きでした。
新青柳橋のたもとのクジラの看板が印象的な建物は今はもうなく、時代の流れを感じます。
途中、拓の家のラジオから流れるCMのフレーズが気になり検索したらYouTubeにありました!
ローカルラジオのCMみたいです。今もあるのでしょうか??『高知放送(RKC)のラジオの王様』
今はない当時の面影を見つけた瞬間に、よりエモさを感じてしまうのかも知れません。
実はNHK朝ドラ、『らんまん』や『あんぱん』などとも少し関係が!
拓の家がある五台山の山の上には2023年NHK朝ドラ『らんまん』で話題になった「牧野富太郎先生」の植物園があります。
ここからも遠くに海が見えます。

高知に行った際はぜひ訪れたい場所です。
また、原作では私立の中高一貫校が舞台でしたが、アニメでは時計台が印象的な公立高校が作画のモデルに使われています。

モデルになった高校は2025年NHK朝ドラ『あんぱん』で話題の「やなせたかし先生」の母校でもあります。
当時を知る世代も知らない世代も、90年代の空気感をぜひ映画で堪能してください。
原作:海がきこえる、海がきこえるII アイがあるから 徳間文庫
原作はAmazonの電子書籍の定額読み放題のサブスク、Kindle Unlimited で読みました。
映画やドラマは一部分のため、すくいきれていなかったところもあり、また”画面”として見せたり時間の制約のため原作と変えた部分も多いのでしょうね。
多感で真っ直ぐな十代だからこそ、許せなくてぶつかったり、歯がゆかったり揺れ動くさまが描かれています。

キッとこちらを見据える勝ち気な少女が印象的な表紙です。
突然身に降り掛かった、自分ではどうしようもできない親の事情に振り回されながら、どうにかしようともがいている様が浮かびます。
今みたいにインターネットも携帯・スマホも普及していなくて、学校や地域内の狭い世界で”ここしかない”と思っていたあの頃の空気感。
「学生時代ってこんな感じだったな」と思い出させてくれます。

一作目より柔らかい雰囲気をまとい、少し大人になった里伽子が表紙です。
大学生になって、高校時代より世界が広がり少し余裕が出てきたように思えるものの、まだまだ潔癖なところも多い二十歳前。
思うように行かないこと、理屈で割り切れない揺れ動く気持ちをどうにかしようとする、周囲の人間模様を見ながら自分も巻き込まれながら、みんなそれぞれ大人になっていこうとしていきます。
自分の嫌な部分まで包みこんでくれる相手、その手を取りたいけど相手の知っている嫌な自分が許せなくて逆に遠ざかりたくなってしまう気持ち。
あなたにもそんな思い出、ありますか?
映画を見た方も見ていない方も、Kindle Unlimited でぜひ原作も読んでみてください。
海がきこえる THE VISUAL COLLECTION
リバイバルにあたって書籍も出ています。

映画を見た後パンフレットを買おうとしたら売り切れていたので、こちらの書籍を買いました‼️
結果大正解!A4サイズで大きくて、見応えがあります。

監督の選んだお気に入り場面や、映画のセル画と原作のイラストの違いなどを見比べるのも楽しかったです。
モノクロ設定集のページが好きで、迷いのない線や緻密な書き込みをじっくり見て楽しみました。
また、1993年の制作のころメインスタッフインタビューというパンフレットからの抜粋もあり、今回の書籍化に向けて”あれから31年”と題して新たなインタビュー記事がたっぷり載っています。
『海がきこえる』復刻パンフレット A4サイズ、16ページ
上映されてわりとすぐに行ったのですが、上にも書いた通り映画館では売り切れていて買えませんでした。
しかしネットで再販するようだと映画館の方に教えていただきました。
後日下記のサイトから販売されるようです↓
2025年7月11日(金)12:00~ Filmarks Store
ドラマ:海がきこえる~アイがあるから~
アニメから2年後の1995年に武田真治さん主演でドラマ化されました。
当時は、「武田真治さんが高知へロケに!」と騒然としていたのを覚えています。
ドラマは原作ともアニメ映画とも少し設定が違っています。
制服は時計台のある公立高校のものを使っていたり、友人の進学先が京都から高知になっていました。
アニメは原作1冊目の「海がきこえる」メインで高校時代の描写が多く、ドラマは1冊目の終わりから2冊目「海がきこえるⅡアイがあるから」の大学生活のほうがメインになっています。
今の若い人に通じるかわかりませんが、「トレンディドラマ」など言われるように、3つを見比べた時に一番都会感があり、特に女性陣が華やかです。
ただ、化粧とか服装とかは実写だとより”昔”感を感じますが、ディテールが削ぎ落とされたアニメだとそのへんが和らいでいたんだなぁと思いました。
女性の個性が強い分、逆に主人公の拓はドラマが一番「純朴」で「振り回される」損な役まわりの印象です。
でも、ここぞという時には方言が飛び出して、里伽子を一生懸命守ろうとする姿に胸を打たれました。
個人的には、原作よりドラマの方で存在感があった大学の先輩「田坂さん」のキャラが好きでした。
最近も同じ俳優さん(袴田吉彦さん)をお見かけしたんだけど、何のドラマだっけ…と検索したら、『不適切にもほどがある』の喫茶のマスター役でした!!
「海がきこえる」では90年代でしたが、さらに前の80年代の役もハマっていて素敵でした。
こちらのドラマはDVD化されていないのですが、もし見れる方はアニメや原作と比べて見てください。
おわりに
TVで見る機会も少なく、リアルタイムではあまり追えていなかったこの作品。
今回のリバイバル上映という機会を得て、改めてその良さを感じることができました。

映画も原作もドラマも、どれも懐かしかったです。
私にはなじみの薄かった”エモい”という言葉を体感できる作品でした。
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